「ガール・ミーツ・ガール」は、「飾らない女の子」をテーマにした女同士のフォトセッション&インタビュー。ゲストにとって「飾らない場所」でデートしながら、女の子の本音に迫ります。
ガール・ミーツ・ガール
ニューハーフ美女と夜の歌舞伎町デート 井上魅夜 × 新宿
女の子同士でデートしながら街と人を紹介するコーナー、9回目のゲストは、どこから見ても女の子ですが、実は......な、井上魅夜(イノウエミヤ)さん。
何を隠そう魅夜さんは男性。しかし彼女(彼が正しいのですが......)は、ほとんど毎日化粧をし、女の子の服を着て、ニューハーフのお店で働いています。また「東京化粧男子宣言!」というイベントの開催も。性転換はせずに「真ん中でいい」という魅夜さんと新宿デートに行きました。
Photo & Text:トミモトリエ

新宿東口の交番前で待ち合わせ。黒いジャケットと赤いミニスカートで現れた魅夜さん
女性が好きすぎて女の子になっちゃった
──女装をはじめたのはいつからですか?
最初は中学生の時。お母さんの服を着て喜んで興奮してるってだけなんですけど、大学に入ってからも隠れてやっていました。
──きっかけは何だったんでしょうか?
原点は多分幼稚園の頃で、女の子の靴と自分が履いていた男の子っぽい靴を見比べて、憧れを抱いたのを覚えています。 でも、ずっと女性と縁がありませんでした。
小学校の頃は、女の子が怖くてあまり話せなくて、中学と高校は男子校だったので、接点がなく、近くの女子高の子とすれ違いで言葉を交わしたら舞い上がっちゃうことも(笑)。女性に対して強い憧れと同時に恐怖があったんです。きっと、女性が好きすぎて女の子になっちゃったんじゃないかな。

魅夜さんお気に入りの、昭和の懐かしい面影が漂う喫茶店「面影屋珈琲店」へ
──大きく変わったのはいつ頃ですか?
2008年1月頃ですね。当時、劇場の施設管理の仕事していて、致命的なミスをしちゃって、散々怒られて、落ち込んで痩せちゃったんです。悔しかったけど「痩せたからいいじゃん」って変に前向きに捉え「どうせならもっと痩せよう」と思いました(笑)。ごはん減らして、毎日通勤で一駅歩いて、仕事でも一番きついポジションを一生懸命頑張りました。そしたら15キロ痩せて、女の子の服が入るようになったんです。


スパイスが効いた「面影屋特製ビーフカレー」1,050円(税込)
──なるほど。そこで、女の子の服を着たいっていう衝動が解放された?
そう。女の子の服が入るのが嬉しくて、とち狂っちゃって(笑)。 それから、女の子の服たくさん買い集めて、だんだん着てるだけじゃ満足できなくなって、見せたくなりました。迷ったんですけど、そういう同好の人たちが集まる場所に行ってみたんです。
そしたら、モテた(笑)。そういう場所にいるのが30~40歳の人ばっかりで、わたしは25歳くらいだったから、若さのせいもあって、すごくモテました。それで「いけんじゃん?」と、勘違いしちゃった(笑)。


コスメにかけるお金は月1万円。無印良品の名刺入れをアイシャドーのケースにしているそうです
エロの仕事だって楽しかった
──最初は、仕事と趣味を切り分けて、こっそりやってた感じですか?
そうだったんですが、だんだんエスカレートしていきました。脱毛したり、化粧品や洋服を買ったり、胸を大きくするために女性ホルモン打ったり......。すごくお金がかかるので、安月給じゃやってられなくなって、エロ系の仕事をするようになりました。そしたら、だんだんそっちのほうがメインになってきちゃって......。
エロ系の仕事に抵抗はなかったです。むしろ、女として見られるのが嬉しかった。職場で「これ僕なんですよ」と、写真を見せてペラペラしゃべってました。そしたら「ちょっと待て、おまえ、どうなっとんねん!」って、上司に呼ばれ(笑)。

笑顔や仕草がいちいちカワイイ。男が落ちるポイントを確実に心得ています
──そりゃ、そうでしょう(笑)。
理解のある上司だったので、趣味として女装するのは認めてくれました。でも、「髪は切ってウィッグにしなさい」と言われて、それがどうしても嫌で、結局、仕事は辞めてしまいました。
その後はエロ系の仕事をしながら、オカマ修行しようと思い、ニューハーフのお店に入ってビシビシ鍛えてもらいました。
──いきなりニューハーフの道へ?
スタートが遅かったから、焦りがあったんですよ。若さで勝負できるのはあと数年しかないと感じていました。がむしゃらにやってみたのですが、やっぱり女には勝てないんだなと実感するエピソードがあり、立ち止まりました。映像で女性と共演したとき、できあがった映像を見てみたら、自分と全然違ったんです。負けたなと痛感しました(笑)。


夜の「花園神社」へ。よくお芝居を見に来るそうです
──それはショックでした?
ずっと「女なんかに負けないのよ!」と思っていたんですが、ただ男性として競うのが怖かったから、 女性として張り合おうとしていたんだとわかりました。結局、傷付くのが怖い、草食男子でした(笑)。女の子が怖かったんです。
それに気付いて、色んなものを捨てていって、最終的に残ったのは、男とか女とかじゃなくて「美しいものが好きな気持ち」でした。それで、文化的なことがしたいなと思って、「東京化粧男子宣言!」っていうイベントをはじめたんです。

2009年11月に行われた、魅夜さんが主催する男の子のミスコン「東京化粧男子宣言!」の様子
参考:美を競う男の子のミスコン「東京化粧男子宣言!」イベントレポート
男と女の真ん中でいい
──完全に女性になりたいわけではないんですか?
真ん中で、使い分けていきたいと思っています。そういう人が、これから増えるんじゃないかな。
今までは2つに分けられているのが基本でした。性同一性障害って、トランスすることは認めているけど、真ん中に留まることは認めていません。それに、自分は障害者であると言わないといけなくて、それが救いな人はいいですけど、 そうじゃない人は、とても生きづらいんです。

一人で飲みに来るという「新宿ゴールデン街」へ。馴染みの店がたくさんあるそうです
──確かに「真ん中」は聞いたことがないですね。
わたし、胸はあるけど、性転換はしていないので、下はついてるんです。性同一性障害って言葉が流行ってから「性転換してないの? 真ん中って中途半端じゃん!」って言われて「中途半端」がよくわからなくて、どうすればいいんだろうと、考えました。
──目指すところは?
女の子になりきっちゃうのは、怖いし、嫌。きっと自分のオリジナリティーを失ってしまう。 抽象的な問題で何とも言えないことはあるけど、生まれつきではないからこそ選べる何かがあると思っています。
例えば「東京化粧男子宣言!」で代表取締役の方に審査員を務めていただいたミス・ユニバース・ジャパンが目指してるのは「人工的なものでよりよく見せるのではなく、 女性の身体そのものがベーシックで美しい」という考えなんです。だけど、わたしたちは人工美の極致。 でも、だからこそ、女性の記号としての美しさを、純粋に抽象的に表せるんじゃないかなと思うんです。


本格的な沖縄料理と種類豊富な泡盛が自慢の「赤花」
──化粧男子のイベントは、そういった気持ちから生まれたんですね。
今の状況を例えるなら、男と女の舗装道路が別々にあって、わたしたちは、真ん中のじゃり道を歩いている、でも、生きないといけない。同じような立場の人たちはたくさんいるけど、自分たちのことを、本質にせまるところまでは考えないんです。説明しようとしないし、ほっといてくださいというのが関の山。
わたしは、説明することが権利であり、同時に、義務でもあると思っています。 黙っていても理解してもらえると思うのは甘いですよね。
──自ら行動を起こすのは大変なんじゃ?
誰かのために生きたいって気持ちがあって、おこがましいかもしれないけど、 こういう立場に居るからこそ、立場を代弁するような運動をしていかないといけないと思うんです。 「東京化粧男子宣言」というイベントは、理屈じゃなくて「かわいければいいじゃん!」っていう、麻薬のような効果を期待している、 意表をついた奇襲攻撃です(笑)。

髪の毛は、ストレートパーマをかけて、1本3000円するトリートメントをつけているとのこと
オヤジ臭がなくなる
──ファッションやメイクは、何を参考にしてるんですか?
街でガン見(笑)。ニューハーフの先輩から教えてもらうことも多いんですけど、先輩たちは、「それはあり」「それはなし」というのは言ってくれても、「こうしなさい」とは教えてくれません。洋服は、新宿アルタの「リズリサ」や「スパイラルガール」で買うことが多いです。
──魅夜さんにとっての女の子らしさって?
すごく記号的なことで、女の子らしく見える子も、バリバリ仕事して、家では彼氏殴ってるかもしれないし、 逆に女の子らしく見えない子も、彼氏や旦那に甘えてるかもしれないでしょ? パッと見てそう思われるかどうかは、記号を寄せ集めてるだけで、そこに女の子らしさとか女の価値があるとは思わないし、 女の子が女の子らしくならないといけないっていうのもまたおかしいと思うんです。

衝撃のビフォア写真を見せてくれました。一応、まだ使える正式な身分証明証です
──今流行っている、草食男子とか肉食女子については?
元々、女の人のほうが圧倒的に強いはず。生んで育てる機能を持っている人に全ての決定権があって、 男は女を奪い合うものなんです。 男は、どんなに仕事が出来て、お金を持ってて、顔がかっこよくても、 女にモテなかったらダメ。
きっと、昔の人は、女の人を家の中に閉じ込めることで幸せになれたんですよ。 今は、時代のたがが外れてしまったので、この流れはもう戻らないと思います。
──魅夜さんは、もう男性の服は着ないんですか?
男性の服は持っていません。まず、ズボンをはかないなぁ。 トイレも女子トイレを使ってます。常に女の人からつっこまれるんじゃないかという恐怖があるんですけど(笑)。 男子トイレは、美意識として入りたくないですね。臭いがいやなんです。女性ホルモン打ってよかったことは、臭いが変わったことですね。 オヤジ臭がなくなるんですよ。お布団の臭いとか変わりますよ(笑)。

新宿駅東口のコインロッカー前。「ミニスカート寒い!」と言いながらも常に我慢している様子
子供が出来るように精子を保存してる
──今の魅夜さんのことを、家族は知っていますか?
父は化粧男子のイベントにも来てくれました。父に会うときはそのままですね。母はあまりいい顔はしないです。 あと、妹がひとりいて、妹は父親が違って歳が離れてるんですけど、よくわかってないかも。なんとなく感付いてるとは思います。
──恋愛や結婚についてはどう考えていますか?
今は彼氏がいます。もちろん異性として好きなんですけど、お父さんみたいな感じですね。 将来的に、子供が欲しいと思っているので、嫁はほしいです(笑)。一応、自分の子供が出来るように精子を保存しています。


100円を払って入る新宿駅中の有料トイレ。もちろん女子トイレに入る
──精子をですか!?
ホルモン投与を10年以上続けると子供が出来なくなるかもしれないんです。だから、自分の精子を液体窒素で固めて3口くらい保存しています。専門の病院があって、年間15,000円くらいで、100年くらい保存してくれます。
子孫を残したいし、自分の父や母を見て、幸せだなって思うので。 だけど、結婚するなら、子供を不幸にするような離婚は絶対にしないです。自分がそれで悩んだので。

この後も用事があるとのことで、「またねー!」と手を振って駅の中に入って行く魅夜さん
──父親になるっていうことは、男に戻ることですか?
ちょっと違いますね。それだと何かを捨てることになってしまう。 「男には責任があるからね」ってよく言われるけど、それって男というものに頼っていないと生きていけないからなんです。 男だって、どう生きたっていいと思うんですよ。
──最後に、魅夜さんの思い描く理想の将来像を教えて下さい。
綺麗なお父さんになりたいです(笑)。 逆に、嫁に男っぽい格好させて授業参観とか行きたいなぁ。 「男でも女でもどっちだっていいじゃないのー!」って、最後までごまかしていくつもりです。 70歳になっても「うるさいわねー!」とかいって(笑)。
だから、世間一般でいう「パパ」とは程遠いかもしれないけど、ちゃんと甲斐性があって、 誰の目にも白い目で見られない人にならないといけないと思っています。 そして、いつか男とか女とか意識しない人と出会えたらいいな。
──ありがとうございました。
撮影協力
面影屋珈琲店(オモカゲヤコーヒーテン)本店住所:東京都新宿区新宿3-21-9 ダッキープラザビル 1F・B1F
TEL :03-5312-7541
営業時間:[月~土]10:00~翌5:00 [日・祝]10:00~23:00
赤花(アカバナ)
住所:東京都新宿区歌舞伎町1‐1‐8 新宿ゴールデン街花園三番街
営業時間:17:30~翌朝5:00
定休日:日曜・祝日

井上魅夜(イノウエミヤ)
1982年7月31日 生まれ。兵庫県神戸市 出身。 早稲田大学在学中から演劇活動をはじめ,卒業後,大道具,劇場管理業をしていたが,ひょんなことから異性装をはじめ,ニューハーフになる。 現在,男女を超えた美しさを追及すべく,「東京化粧男子宣言!」というイベントをプロデュースしている。東京化粧男子宣言!公式サイト
みやの一日一美~前向きでフランクなニューハーフ、みやの楽しい日常~
ガール・ミーツ・ガール過去記事
2010.01.05 19:30















