コラム

腹黒い11人の女

「二人、いつか稲穂が輝く場所で」第十一話(最終話)夕陽を眺めて【腹黒 Vol.35】

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illustration by 山崎ひかり


書籍化した長編小説「腹黒い11人の女」に掲載できなかった物語をスピンアウト。
渋谷の場末のキャバクラに勤めるちえり。

「怖いよ、私。あの人の人生、滅茶苦茶にしちゃった」
キャバクラ嬢として仮想恋愛を本気にされてしまうのは辛い。
「皆、優しくされたいだけなのにね」


⇒第十話を読む




* * *



 翌日。暇な早い時間につけていたテレビでは、最近話題になっている田舎を舞台にした純愛ドラマが放送されていた。
 最近、このドラマに出演した事で名前が知られた女優が、棒読みで言った。
「ねぇ、私、あなたがいれば何にもいらないな」

 その台詞に店の女達はこう呟く。

「嘘つけ」
「私はいる。金とか服とか空気とか」
「自由も欲しいよね。あと一人の時間も欲しい」
「私はいらないかな。ていうか、男自体が今いらない」
「毎日数十人とメールして、毎日十人以上に笑顔振りまいてますからね」
「ねー」

 私の携帯電話の登録グループ『客』には既に百人以上の番号とアドレスがある。普段使う時はそのグループ名が目に入らないように、私はグループ『客』をシークレットに登録している。

 それでも、時折そのグループの存在を思い出すと、小さな携帯ですら抱えきれない程に重く感じる。その度に私は全部を捨てて逃げたくなる。

 そして、その後、いらないものばかりを手に入れて、その重みに動けずにいる馬鹿な自分に呆れ返る。

「何もいらない」

 男の胸の中で、女優がもう一度言った。
 私は、その言葉を胸の中でもう一度繰り返した。

 何もいらない。

 呟くとその言葉は違う意味を持って響いた。私は膝を抱えて、泣きじゃくりたいような気持ちになりながら、テレビ画面を見上げた。
 
 その日、私は出勤前に田守に連絡をした。田守を切った後、すぐさま私は携帯から彼のアドレスを削除していた。だが、店用のアドレス帳にはまだ田守の連絡先が残っていた。

 携帯を置きっぱなしにして失踪した田守だが、もしかしたら戻ってきてまた同じアドレスを使っているかもしれない。ほとんどそんな可能性はないと思いながらも、私はメールを送った。

『お元気ですか? この前、お友達がお店に来たよ。心配してたよ』

 すぐさま携帯が震えた。私は携帯を慌てて開いた。このアドレスは現在使われておりません、という携帯電話会社のサーバーからのメールだった。私は息を吐き、携帯を閉じた。

 皆、優しくされたいだけなのに。
 嘘でもいいから優しくされたいだけなのに。

 誰かが言った言葉が頭の中を回った。

 テレビでは、今も田舎町を舞台にした純愛ドラマが繰り広げられている。私は、田守が、今、こんな景色の中にいてくれたらいいと願っていた。

 辿り着いた先の何処かの小さな町で、純朴で優しい女の子と出会い、心穏やかに暮らしていてくれたら。

 行きたいなあと呟いていた菜の花畑や黄金色に輝く稲穂がある場所にいてくれたら。さわさわ流れる小川や真っ赤な夕陽を眺めて、誰かと手を取り合っていてくれたら。

 田守の望みに付き合えなかった私が、そう思うのは傲慢だと、自分でも思う。けれど、私はそう願っていた。その願いを叶える事は出来ないけれど、それでも、嘘ではなく、そう願っていた。





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三谷晶子


東京都出身、文筆業。俳人・三谷昭を祖父に持つ。編集プロダクション勤務を経て女性誌を中心にライターとして活動。その間、鹿児島県沖永良部島に移住、日本各地を巡る、キャバクラに勤める、東京で夜遊び三昧などをしつつ過ごす。2008年、小説『ろくでなし6TEEN』(小学館)で小説家デビュー。美酒と美味を楽しむことに貪欲な神社マニア。
BLOG:三谷晶子の日々軽卒。
TWITTER:akikomitani
COLUMN:腹黒い11人の女

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