コラム

腹黒い11人の女

「二人、いつか稲穂が輝く場所で」第十話 本当が欲しいけど【腹黒 Vol.34】

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illustration by 山崎ひかり


書籍化した長編小説「腹黒い11人の女」に掲載できなかった物語をスピンアウト。
渋谷の場末のキャバクラに勤めるちえり。

田守の上司の男から、田守の純粋な恋心を聞き、自分の狡賢さや適当に世を渡る術を少しでもあげたかったとちえりは思う。


⇒第九話を読む




* * *



 その日の営業終了後、カウンターにぐたりと寄りかかる私を、女達は静かに見守っていた。
 田守との顛末は私が話さずとも、既に大体知れ渡っていた。うちの店の女達は無用な詮索はしない。だが、その日は既に上がりの時間を過ぎている女まで店に残っていた。

「どうにもならないよ、人の気持ちは」

 私服に着替えたあいが、静かに言った。

「生きてるのかな」

 私は、今まで怖くて口に出せなかった言葉を始めて口に出した。言いたくはなかった。言ったら本当になってしまうような気がした。けれど、私の胸にずっと渦巻いている懸念はそれだけだった。

「人間、そんな簡単に死なないよ」

 純が、煙草をふかしながらそう答えた。

「怖いよ、私。あの人の人生、滅茶苦茶にしちゃった」

 小刻みに体が震えた。私の肩にぽんと手を置いてまりかが言った。

「わかんないって。そんなに暗い方向で決め付けなくたっていいじゃない。失踪先ですごいいい女と出会って電撃結婚とかしてるかもしれないよ」

「だったらいいけど」

 そう思いたいけれど。そう続けようとしたが言葉が続かなかった。店長が、私の目の前に酒を置いた。営業終了後は本来なら速やかに誰もが帰らなければならず、酒を飲むのも規則違反だった。だが、今日は店長がそれを黙認していた。

 私は、出てきた酒を口に運んだ。それでも手の震えが収まらなかった。

「大丈夫だよ。生きてれば何でもありだよ」

 まなが私の近くに灰皿を引き寄せながら言った。

「私、別にあの人を不幸にしたかった訳じゃないんだよ。指名は欲しかったけど、借金背負ってまでは来て欲しくなかった。そんなに自分を追い詰めないで欲しかった」

「わかってる」

 ゆうかが静かに言った。

「わかってる」

 あいが同じ言葉をもう一度呟いた。そして、それから「店長、私もお酒」と言い、私達は期限切れのボトルを出してきて、しばし、酒を飲んだ。

「嘘でもいいから優しくして欲しい相手に、嘘で優しくしてあげるって悪い事なのかな。向こうが求めてるんだからって、ずっと私は思ってた。でも、そうしたら壊れちゃう人がいるんだね。私のせいじゃないのはわかってる。でもさ、やっぱり、胸が痛いよ」

 もう何杯目かもわからない酒を飲み干した後、私はそう言った。我ながら呂律が回っていなかった。そんな私を女達は許した。今日は誰も、酔い過ぎだとは言わなかった。

 私の言葉に女達が口々に言った。

「でも、どうにも出来ないんだよね」
「ずっと嘘はつけないよ」

 あいが腕組みをしながら言った。

「私もさ、危ない客の事を笑い話みたいにしてるけど、自分が追い込んだんだって思う時あるよ。仮想恋愛だとわかっててそれを楽しんでくれる人はいいんだけどさ。そうじゃなくて本気な人は辛いよね」

 純が酒のグラスを傾けながら言った。

「所詮、キャバクラ嬢って思われるのも腹が立つけどさ。作った自分を本当だと信じ込まれて愛されるのも辛い」

 ゆうかがぽつりと続けた。

「本当が欲しいけど、本当は怖いよね」

「うん」

 本当は怖い。私達はその言葉にそれぞれが頷いた。

「皆、優しくされたいだけなのにね」

 誰かが言った。それにまた皆が静かに頷いた。

「嘘でもいいから、優しくされたいだけなのにね」

 また誰かが続けた。無言のまま、それぞれが酒を飲んだ。

 私達は、ただソファの背もたれに体を預け、自分が今まで傷付けた誰かの事を思い出していた。






つづく




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三谷晶子


東京都出身、文筆業。俳人・三谷昭を祖父に持つ。編集プロダクション勤務を経て女性誌を中心にライターとして活動。その間、鹿児島県沖永良部島に移住、日本各地を巡る、キャバクラに勤める、東京で夜遊び三昧などをしつつ過ごす。2008年、小説『ろくでなし6TEEN』(小学館)で小説家デビュー。美酒と美味を楽しむことに貪欲な神社マニア。
BLOG:三谷晶子の日々軽卒。
TWITTER:akikomitani
COLUMN:腹黒い11人の女

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