コラム

腹黒い11人の女

「二人、いつか稲穂が輝く場所で」第九話 でも、ごめんなさい【腹黒 Vol.33】

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illustration by 山崎ひかり


書籍化した長編小説「腹黒い11人の女」に掲載できなかった物語をスピンアウト。
渋谷の場末のキャバクラに勤めるちえり。

田守の上司の男は、通夜のように田守の話を続けた。
「あいつ、ちえりちゃんの事、こう言ってたよ。『初めて会った時、ちえりちゃんはにこにこ笑って僕の横に嬉しそうに座ってさ。あんな風に僕の話を嬉しそうに聞いてくれた女の子はちえりちゃんが初めてだった』って」


⇒第八話を読む




* * *



 やっとの思いでグラスをテーブルに置いた。そのまま、私は手を額に当てた。手についていたグラスの水滴が額を伝い、目に入った。私は目を強く瞑り、また呟いた。

「そんな事」

 額から頬に流れた水滴を、涙だと勘違いしたのだろう。男はあたふたと自分の上着からティッシュを取り出した。

 私は、女が泣けば男は自分が悪いような気持ちになるものだと知っていた。今した仕草は無意識のものだったけれど、私の心の何処かにはその男の習性を利用しようとした部分があった。

 自分のそんな狡賢さを田守にあげたかった。私自身を彼にあげる事は出来ない。けれど、そんな風に、適当に世を渡る術を少しでもあげられたならばと思った。

 田守の上司は私の様子を勘違いしたまま、おろおろとしていた。すいません、大丈夫です。私はそう言った。

 それから、しばらく沈黙が続いた。男は胸に溜めた息を全部吐き出すかのように深く深く息を吐いた。私と彼の間で今更、通常のキャバクラ嬢と客のような話が出来る訳がなかった。

 私はただ無言で一向に飲み下す事の出来ない感情を、口の中に詰め込まれた泥のように味わうばかりだった。

 彼がまた口を開いた。

「俺さ。よく相談されてたんだよ。あいつから。ちえりちゃんの本当の気持ちを知りたいって。でも、こう言っちゃなんだけどやっぱりお店の娘だろ。向こうは仕事なんだよって俺も言ってたんだ。でも、あいつはこう言い張ってた。『ちえりちゃんはそんな娘じゃない』って」

 すみません、と私はもう一度言った。すみません。そんな言葉では済まないからすみません、なのだと思った。

「いい年してあいつがうぶ過ぎたのが悪いんだけど。ちえりちゃんは全然悪くないけど」

 男は私の謝罪に、そう言った。

「ごめんなさい。謝るのは違うと思います。でも、ごめんなさい」

 私は、そう繰り返した。





つづく




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三谷晶子


東京都出身、文筆業。俳人・三谷昭を祖父に持つ。編集プロダクション勤務を経て女性誌を中心にライターとして活動。その間、鹿児島県沖永良部島に移住、日本各地を巡る、キャバクラに勤める、東京で夜遊び三昧などをしつつ過ごす。2008年、小説『ろくでなし6TEEN』(小学館)で小説家デビュー。美酒と美味を楽しむことに貪欲な神社マニア。
BLOG:三谷晶子の日々軽卒。
TWITTER:akikomitani
COLUMN:腹黒い11人の女

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