コラム

腹黒い11人の女

「二人、いつか稲穂が輝く場所で」第三話 何とか、というのは【腹黒 Vol.27】

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illustration by 山崎ひかり


書籍化した長編小説「腹黒い11人の女」に掲載できなかった物語をスピンアウト。
渋谷の場末のキャバクラに勤めるちえり。

ちえりに入れ込む田守を案じて職場の上司の男が来店した。
「ちえりちゃんには関係のない事だ。全部あいつの責任だ。それはわかっている。でも、何とかしてやれないか」
「何とか、というのは、田守さんと本当にお付き合いする、という事でしょうか」

⇒第二話を読む




* * *



 その言葉に男は口を閉ざした。口を開け、呻くように、出来れば、と言いかけた。しかし、すぐにまた口を閉じ、彼は首を横に振った。でも、無理だよな、とそのまま続けた。私はその言葉に頷く事も否定する事も出来ぬまま、膝上に置いたハンカチを撫でていた。

 田守が悪い人間ではないのは知っている。田守が私の為に誠心誠意尽くしてくれているのもわかる。けれど、私は田守と金を貰わなければ一緒にいたくはなかった。残酷な事実だった。けれど、それはどうにも変えられなかった。

 田守の上司であるその男も、それをよくわかっていたようだった。「無理を言ってごめん」。彼は無言の私にそう続けた。

「私、何度も言ったんです。そんなに無理をしないでって。週に一度、二時間くらいでいいからって」

 田守の上司は、あぁ、と頷いた。

「でも、田守さん聞いてくださらなくて。昼間に会おうと言われて。私、お断りしたんです。それから週に三日はいらっしゃるようになって。それは嬉しいです。でも、私、そんな風にしてまでは来て欲しくはないです」

「そうだよな。ごめん」

「謝られるような事ではないですけれど、謝るのはこちらの方かもしれないですけれど」

「いや、悪いのはあいつだ。本当、ごめん」

 その男は何度もそう繰り返し、私にもう一杯ドリンクを勧めた。本当はもうこれ以上、田守の周辺から金を取るような事はしたくなかった。けれど、彼は勝手にお代わりを頼み、私はそれを仕方なく飲んだ。

 帰り際、私は田守の上司にこう言った。

「取り返しがつかなくなる前に何とかします。多分、田守さんをすごく傷つけると思うけど」

 そう言った私に田守の上司は深く頭を下げた。

「すまん、本当にすまん」

「謝るべきなのはこちらだと思います」

「そんな事はないよ。君はお店の女の子としてやるべき事をしているだけだ」

 彼の言葉に、私は一瞬泣きそうになった。私は首を横に振り、明日電話してみます、と言った。

 その頃、私から田守に連絡をする事は滅多になくなっていた。連絡をしなくても、田守は店に来るから営業する必要がなかったのだ。だが、私はその日、朝刊と夕刊の配達の間で暇だと彼が以前言っていた時間に電話をした。

「嬉しいなぁ、今日ちえりちゃんに会いにいこうと思っていたんだ」

私が何かを言う前に田守はそう言った。

「渡したいものがあるから、待ってて」

そう続けた。私は怪訝な気持ちになりながらも、じゃあお待ちしてます、とだけ言って電話を切った。



つづく




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三谷晶子


東京都出身、文筆業。俳人・三谷昭を祖父に持つ。編集プロダクション勤務を経て女性誌を中心にライターとして活動。その間、鹿児島県沖永良部島に移住、日本各地を巡る、キャバクラに勤める、東京で夜遊び三昧などをしつつ過ごす。2008年、小説『ろくでなし6TEEN』(小学館)で小説家デビュー。美酒と美味を楽しむことに貪欲な神社マニア。
BLOG:三谷晶子の日々軽卒。
TWITTER:akikomitani
COLUMN:腹黒い11人の女

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