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誰しも悪役を演じなければいけない時がある―漫画家日本橋ヨヲコインタビュー

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日本橋ヨヲコ
 
 現在、講談社イブニングで「少女ファイト」を連載中の漫画家日本橋ヨヲコさん。「少女ファイト」は、バレーボールを題材にしていますが、王道のスポーツ漫画ではなく、スポーツを通して成長していく、少女たちの 心の葛藤や人間模様を丁寧に描く、作者曰く「爽やかではないスポーツ漫画」です。

 力強い独特の絵柄と、繊細な心理描写を描くストーリーは、男性的、女性的、どちらの視点も併せ持つ日本橋ヨヲコさんだからこそ描ける世界。この作品が生まれた背景や、気になる制作現場の様子など伺いました。

取材:トミモトリエ


誰しも悪役を演じなければいけない時がある


──デビューしてからの経歴を教えてください。

 1996年8月に講談社ヤングマガジンでデビューし、その後2000年11月~小学館IKKIで「G戦場ヘヴンズドア」、2006年12月~講談社イブニングで「少女ファイト」の連載を始めました。 そう考えるとデビュー10周年くらいに少女ファイトを描き始めたんですね、今気がつきました。

日本橋ヨヲコ
「少女ファイト」(イブニングで連載中)の主人公の大石練

──「少女ファイト」について、ヨヲコさん的見どころは?

 私は生きていると誰しも悪役を演じなければいけない立場になる時が来ると考えていて、そういうときの応援歌のような漫画として、元気がなくなった時に読んでもらえたらいいなぁと思っています。

 「少女ファイト」のストーリーは、主人公大石練と仲間達率いる私立黒曜谷高校バレー部が、高校バレー界でヒール役として君臨する青春バレー珍道中。 まったく爽やかじゃないスポーツ漫画です(笑)。バレーを知らなくても読めるように作っているので、運動が苦手な方も楽しんでもらえると思います。

──ご自身も、小学校の頃バレーボール部に所属していたそうですが、作品の中で経験が活かされているところはありますか?

 たくさんあります。コートの上は孤独と一体感の両極を味わえる、少し特殊な空間なんです。そして異常なまでに「空気を読む」ことが必要とされる競技なので、少しでも崩れると一気に流れが変わっちゃうんですよね。 どんなに強いチームもあっさり負けてしまう時があるので、そのへんの微妙なバランスを描いていきたいです。


キャラクターは身近な人だったり、イメージだったりさまざま


──登場人物についてとても細かい設定やリアルな描写が描かれていますよね。 どうやって考えているんですか?

 連載前は、こういうお話を描きたいと決めてから、それを動かすのに最適なキャラクターを思い浮かべています。その子たちを頭の中の映画館で上映してニヤニヤして、それを紙に描き出して......、という感じ。 なので、連載中にイメージが変わってくると、造形も少し変わってきちゃうこともあります。

 話が進んでいくと、そのキャラクターからフィードバックしてお話が作られることも。 エピソードが増えるごとに、自然にキャラクターの輪郭がはっきりしていくんです。

日本橋ヨヲコ
趣味で作っているというフェギュア。少女ファイトでは、大石練の趣味として登場する

──具体的に、実はこの人がモデルになっているとか、自分と似ているキャラクターがいることも?

 あえていうなら学のモデルは、男女関係なく生まれてから今まで優しくしてくれた人のイメージの集合体なので、身近なひともいれば読者さんもいます。 あ、三國くんだけは自分の勝手なイメージの松岡修造さんだったりしますが(笑)。

 自分を作中のキャラクターに例えると、ナオの考え方に近い気がします。勝負事は苦手ですね。


少女ファイト第6巻特装版特典DVD。SDアニメ約25分+フルアニメPV約5分というファンにはたまらないボリューム

──マンガの絵は線が太めで、どちらかというと男性的だと思うのですが、何か影響を受けたものはありますか?

 小学校で描いたポスターなども線が太いので、これはもう幼い頃からの性癖のようなものだと思います。 絵で影響を受けたのは新沢基栄先生の「ハイスクール!奇面組」なのですが、先生の絵はそこまで線が太くないんですよね。

──他にはどんな漫画を読んでいたんですか?

 10歳上の兄が少年漫画を大人買いしていたので、小さい頃は全ジャンルを潤沢に偏り無く読んで育ったと思います。 一番衝撃だったのはやはり手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」。あのページ数であの濃度、そして一切の無駄が無く、何万回でも繰り返し読める無限の情報量に戦慄しました。

──漫画家になろうと思ったのはいつですか?

 最初になりたいと思ったのは小学生の頃ですが、本気でなりたいと思ったのは幼なじみのトモミちゃんと出会った中学1年の頃ですね。 初めて彼女のスケッチブックを見た時の衝撃は今でもリアルに覚えています。 初めてちゃんと描いた漫画は、確か彼女に読んでもらうために描いたもので、内容はギャグ漫画だったような?

 未だにわたしのなかのミューズは彼女ただ一人で、何かに迷ったら彼女と一緒に楽しく漫画を描いていた頃を思い出して初心に帰ります。


漫画家と主婦の両立


──現在、お仕事はどんな感じで行われているのでしょうか?

 数年前に自宅と仕事場を分けました。仕事場は1階がアシスタントさん、2階がわたしとチーフの旦那の机がありまして、 吹き抜け構造になっているので、みんなで歓談しながら仕事をしたりします。

 現在アシさんは4人で、2人ずつ交代で入ってもらっています。少女ファイトは作画に時間がかかるので、1話で2週間強かかってますね。 よく読者様から隔週連載を希望されるのですが、現状では月イチ連載が自分の体力と折り合わせた限界ラインなので、お許し頂ければと......。 もうしわけないー。

日本橋ヨヲコ
少女ファイトに出てくる北江古田公園。

──そんなお忙しい中でも、昔から、ホームページで積極的にファンと交流していますよね。 最近はTwitterを頻繁に更新していると思いますが、大変じゃありませんか?

 いやもう、読者様がわざわざ私などに暖かいコメントをしてくださるのがありがたくて、ぜんぜん大変じゃないです。 ただ、私からすれば読者様はある意味聖域なので、ご迷惑をかけないよう距離感だけは気をつけるようにしていますね。

 Twitterは読者様との交流が盛んな分、作者としてどう切り返すか、どう呟けば誰も傷つけず失礼にならず楽しんで頂けるのかを鍛えられます。 それは漫画でも何でも同じ事だと思いますので。

日本橋ヨヲコ
読者の方がつくってくれたというフィギュア。

──お仕事がない日はどんな風に過ごしていますか?家事や料理などもします?

 最近は時間ができたら温泉に行ってますね。湯治も兼ねて仕事道具を旅館に持ち込んで、温泉→ネーム→温泉→ネームを繰り返したりします。 血行が良くなるといいアイデアを思いつくのですよ。

 家事は、旦那さんが万能過ぎるので、何一つかないませんが、お料理は好きなので結構作りますよー。 アシさんがいるので大人数料理を爆速で作るのが得意です。

──もし、漫画家にならなかったら、何をしていたと思いますか?

 今も漫画がお休みの時期は主婦にジョブチェンジするので、やっぱり主婦になっていたと思います。 そして他の好きなことをしても、結局漫画に戻ってくる気がします。


ラブラブな両親の温かい家庭で育ちました


日本橋ヨヲコ

──ヨヲコさんの作品には、過去のトラウマであったり、家族に対してのコンプレックスであったり、 心の中にある大きな壁を乗り越えていくというエピソードが共通して描かれていますが、自分自身、こういった壁を乗り越えたという体験があるのでしょうか?

 漫画に描くと本人もそうなんじゃ......と思われがちなのですが、申し訳ない、笑っちゃうくらいに両親がラブラブ過ぎる温かい家庭で育ちました。

 過去のトラウマに関しては多分どなたも何かしら持っているもので、その本質は突き詰めていくと同じようなもので出来ていると思います。 それを丁寧に描く事で、冷静にひとつの事柄として整理し、娯楽に変換して読者様に楽しんで頂けたらいいなと思っています。

──漫画の中で様々な女性を描いていると思いますが、 ヨヲコさんにとっての理想の女性像はどんな女性でしょうか?

 うーん、理想の女性像ですか......。誰を見てもみんなそれぞれに素敵な子だよと思うので、これ!みたいなのはあまり考えた事がないかも。 わたしの頭の中の拙い理想よりは、現実にいる女性のほうがはるかに興味あります。

日本橋ヨヲコ
少女ファイトの舞台になっている江古田のスリーエフ。非公認で応援してくれる様子を作者が撮った写真。

──「少女ファイト」を通して伝えたいことは何ですか?今後の展開についても可能であれば少し教えて下さい?

 つ、伝えたいことですか?それはちょっと照れくさくて作者からは言いにくいというか、読者様もそう読まないとってバイアスがかかるといけないから読んで察してやって下さい(笑)

 今後の展開については、練はたぶん読者様が思ってる以上に成長していくと思いますので、気長に見守ってやってくださると嬉しいです。 地道に丁寧に淡々と少女ファイトを描いていけたらいいなと思います。

──最後に何かメッセージを。

 今回は周りを見渡す限り素敵女子武将たちの戦国無双会場にお呼ばれしてしまって、 落武者漫画家としては場違い過ぎるため正座しながら答えさせて頂きました。 ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。東京ナイロンガールズ最高!

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日本橋ヨヲコ 日本橋ヨヲコ

1974年10月3日生まれ 香川県出身。 1996年8月13日発売講談社ヤングマガジン36,37合併号「ノイズキャンセラー」でデビュー。 現在「イブニング」(講談社)で『少女ファイト』を月イチ連載中。

既刊本
「プラスチック解体高校」(全2巻)
「極東学園天国」(全4巻)
「日本橋ヨヲコ短編集/バシズム」(全1巻)
「G戦場ヘヴンズドア」(全3巻)
「少女ファイト」1~6巻(以下続刊)

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